濱田庄司展メモ


バーナード・リーチが私の二尺の大皿に釉の流掛をするところを見たいという。私は軽い柄杓に二分の一ぐらい釉を掬い、直線の場合には大皿の先方一尺程のところから流し始め、出来るだけ意識を抑えて一気に手許まで描き流す。横線は引きにくいから皿の方を廻して、これも直線に直して引く。斜めに太い細い曲線をあやつって渦を描くがこれは少し難しく練習を要する。こんなに贅沢に灰釉を使うのは英国では難しいと、リーチは渋る。

別の訪問客は、これだけの大皿に対する釉掛が十五秒ぐらいきりかからないのは、あまり速過ぎて物足りなくはないかと尋ねる。

しかしこれは十五秒プラス六十年と見たらどうか。自分でも思いがけない軽い答が出た。

リーチも手を打ってうまく答えたと悦ぶ。こうなると、この仕事は自分の考えより、手が学んでいたさばきに委したに過ぎない。結局六十年間、体で鍛えた業に無意識の影がさしている思いがして、仕事が心持ち楽になってきた。

濱田庄司「一瞬プラス六十年」『無盡蔵 』




一見すると、偶然のように流れる釉薬の線。
簡単にできるものかと言えば、そういうものでもない。
日々の技術の積み重ねによって、その模様の美は生み出されているということだ。






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